その日はひどく具合が悪く、朝からふらふらだった。
しかし編集期間という事もあり、心配して早退を勧める同僚に半笑いで答えながら、押し寄せる仕事の山に必死に食らい付いていた。

ドタバタとした状況が落ち着いて来たのは日も暮れた頃で、ようやく訪れた束の間の平穏にほんの数分ぼうっとしてしまい。
そこを間が悪い事にたまたま後ろを通り掛かった上司に見つかり、「作業がないなぁー暇だなぁーじゃなくて、仕事は沢山あるんだからな！！」と周囲に聞かせるような大きな声でお叱りを受けてしまった。
どんなに体調が悪くても休めない時があるというのが社会人というものだが、さすがにその後の時間は最悪な気分のまま仕事をする羽目になった。

「自分の作業が終わった奴からさっさと帰れ！」
夜になってやっと上司から帰宅のお許しが出たものの、気分はすっきりしないまま心身ともに疲労感でいっぱいでため息をつく。
するとすぐ傍から、思い掛けない言葉が耳に飛び込んで来た。

「よく頑張りました。」
隣の席の、自分よりずっと年上の先輩同僚だった。
向こう一時間は残業確定の自分の作業をディスプレイに広げたまま、にこにこしながら顔はこちらに向けている。


「お疲れ様。…大丈夫？」



余裕のない誰かの、心ない一言に足元を掬われて
かと思えば、これまた余裕のないはずの誰かの、何気ない一言に救われて
仕事ってのは、何年経ってもずっと大変なままで。


仕事って、そういうもんですね。