自分が礼儀正しく接しているのに失礼な態度で返してくる人、皆さんの周りにもいませんか?
今回は、中国の戦国時代に活躍した信陵君(しんりょうくん)という人物にまつわるお話を紹介します。
その昔、信陵君というとても評判の良い人物がいました。
彼は相手の身分を問わず才を持つ者を好んだので、ある日門番をしている老人が賢人だという噂を聞いた時には、早速その老人を宴に招きました。当時門番といえば身分が低い者がするような仕事だったので、そんなみすぼらしい姿の老人を宴に招いたという事も驚きだというのに、なんと信陵君自ら馬車で迎えに行ったのです。
そんな信陵君の礼儀に対して老人の方はというと、信陵君を差し置いて馬車の一番良い席に座り、通り掛かった知人を見つけるや馬車を停めさせ長々と世間話を始めてしまいました。しかし信陵君は、そんな老人の態度に嫌な顔一つせず、話が終わるまで待っていてくれたのです。
宴の席では、やはりこの老人の横柄な態度が気に入らない他の客らが彼を問い詰めました。
すると老人はこう答えたのです。「これは自分のような者を宴に呼んでくれた信陵君への"恩返し"である」、と。
恩返し…?
目が点になる客の者達に、老人はその理由を語りました。
「今日の私の態度は誰が見ても咎められるべきものだろう。だが信陵君はどうだ。この無礼者に対してこんなにも礼を尽くして下さった。その信陵君の姿は人々の心に人格者として刻まれ、良き噂となって国中に広がって行くだろう。」
門番の老人は、信陵君の人徳を引き立たせる為に汚れ役を演じていたという訳ですね。
誠意を持って接しているのに、それを失礼な態度で返されたら当然もやっとしますよね。
そんな事が一度のみならず何度も続けば、こんな奴に愛想良くする必要なんかねえ馬鹿馬鹿しくなってきた!となるのも分かります。
しかしちょっと待って下さい。その人は単なる嫌な奴ではなく、(本人にそのつもりはないのかもしれませんが)この信陵君の話に登場した、あなたにとっての門番の老人なのかもしれません。
礼儀正しい人に対して、礼儀正しく出来るということは当たり前。
それを無礼な人に対しても同じように出来るかどうか、そこに人としての器が試されているのではないでしょうか。