「そうなんですよ！今度うちの店舗で職場体験をやる事になって、このポスターもそれでなんですよね」
「おお、職場体験ですか。いつ頃されるんですか？」
「9月です！」
「ああー、じゃすぐなんですね」
「そうなんです！」

浮き浮きした様子で話す中肉中背の男は、どうやらアイスクリーム屋の店員らしい。
仕事中に抜けてきたのか、制服の帽子とエプロンの出で立ちそのままだった。

「来るのは中学生なんですよ！もう可愛いじゃないすか、今からおみやげとかどうしようって考えると自分が止められなくなりそうで！」
「ははは」
「仲介してくれる企業があって、そこに『アイスクリーム屋で働きたい』って希望に書いたみたいで…！」

男の喋りは止まらない。
客が依頼ついでに雑談を始めてしまうのは珍しいことではなかったが、この日の男はとにかく熱意が違った。
聞けば職場体験に来る学生の為に記念品を用意したいらしい。
来る日を想像しながらどんどん話を膨らませ続ける男の声は、黙々と作業をする従業員達の頭の上を小躍りしている。

「何か思い出に残る物をおみやげにしてあげたくて、向こうから逆に思い出を作ってもらっちゃうかもしれないんすけど！」
「そういう事なので、是非その時はよろしくお願…あっ」

延々と続くアイディアの発表会にようやく終わりが見えそうだった瞬間に男が見つけたのは、自社広告の「オリジナルTシャツ作ります！」という宣伝文句だった。


「…あのこれ、二着からでも出来るんですか！？」


まだ先は長い。




結局その後、事務所にふらりと現れた社長が店員にアイスクリームの注文をした事で、ようやく受付係は長い拘束から解放された。
しかし案外楽しんでいたようで、本人が去った後もしばらく話題はあのアイスクリーム屋の店員の話で持ちきりだった。

「あんなに熱い人、久しぶりに見ましたよ」
「売ってるのは冷たいアイスなのにな！」

笑い合う受付係と社長の会話を背中で聞きながら、脳裏を過ぎるのは顔をくしゃくしゃにして笑う幸せそうな男の顔。




「アイスクリームには、「愛」が入っているんすよ！」